2020/04/06 15:07

神石高原町(じんせきこうげんちょう)で唯一の酒蔵『三輪酒造』。

広島県でもっとも標高が高い場所にある酒蔵です。

高地にあるため、年間を通して冷涼な環境ですが、

冬季には最低気温はマイナス10℃にも及ぶこともあります。

創業300年、第15代当主である三輪さんは、

こうしたなかで歴史と伝統に裏打ちされた日本酒造りに取り組んでいます。

その情熱と酒造りへの思いをうかがいました。



——現在、15代当主でいらっしゃいますが、どのようにお感じになっていますか。

三輪 それはもう、感謝しかないですね。この場所があり、建物があり、技術を残してもらっているということに感謝です。酒造りに必要なすべてを残してもらっているということ。そして、この環境のすべてです。そのなかで仕事ができるというのは、感謝以外にないですね。

——こちらのお宅の前には、伊能忠敬測量隊が宿泊したことを記念する石碑が建てられていますね。


三輪 千葉県にある伊能忠敬の記念館に行ったことがありますが、そこでは神石高原町の油木、三輪酒造のあるこの場所も示された地図がありました。

——それほど歴史ある場所なわけですね。御社のブランドであるお酒の『神雷(しんらい)』の名前の由来は?

三輪 『神雷』というブランド名がいつ頃でき上がったのかは不明です。ただ、呼び名の変更があったようで、もともと「ジンライ」というふうに濁音があり濁る音でした。先々代が、「濁音は(清酒の)濁りに通じるから」という理由で、『シンライ』になりました。それと、お客様との信頼関係を築きたいという意味も込めていたようです。

 『神雷』という名前について、ちょっとおもしろい話があります。「雷」には、神様にまつわるものという言い伝えがありますよね。神社などで見かける紙垂(しで)は、稲光をかたどったものといわれています。

 「稲妻」は、もともと雷が稲を実らせるという俗信により、雷光のことを「稲の夫(つま)」の意味をこめて呼んでいたようです。「つま」は、「つま()」で本体から見て、もう一方の端、相対する位置のものの意味があったそうです。これを人間関係に置き換えると、配偶者、つまり「夫」や「妻」になるわけですね。

よく、落雷があると稲が育ち、豊作*1になるといわれています。「稲光」という文字には、「稲」という字が使われているくらいですから。稲光は、神霊が地上に降り立つときの光と考えられていたようです。その稲光を紙で表現し、神の出現とか、神が宿るものとしてきたのでしょう。雷が落ちると豊作になるという話にはちゃんと根拠があるんです。それは、落雷があると窒素が土に入り、豊穣になるということですね。稲光をかたどった紙垂は、雷光や稲光を象徴し、かつ聖域を示していました。邪悪なものを追い払う、という意味合いもあったようです。

 

*1雷を受けると植物は成長するという実験が行なわれたことがある。https://www.sankei.com/west/news/170401/wst1704010052-n1.html放電で水中の窒素が1.5倍になり、成長を促すそう。雷によって、大気中の窒素が田畑に固着されるということも科学的に立証されている。

 

——まさに神の雷ということで、さまざまな背景があるんですね。ところで、三輪酒造さんでは、酒米をつくることも始めているそうですが。

三輪 平成27年から神石高原町で栽培した酒米を使って日本酒を醸しています。それが『神石高原生酛純米酒』という生酛(きもと)づくりの清酒です。八反錦2号という品種を使い、江戸時代から始まった生酛づくりという手法でつくっています。これは大量生産ができません。

 

広島の米と酵母と神石高原町の水と

 

——神石高原町唯一の酒蔵なわけですが、なにかこだわりはありますか。

三輪 こだわりといえば、広島の米と酵母を使う、ということですかね。あくまでも地元にこだわるということです。

——三輪酒造さんでは、どんなお水を使っているのでしょうか。

三輪 弊社には井戸が二本あります。深さ15mの山井戸(酒蔵の裏山にある)からは軟水がとれ、酒蔵の地下50mから引き上げるボーリング井戸からは中硬水がとれます。発酵を促したい仕込み初期は中硬水を使い、味わいの柔らかさを求める仕込み後期と割り水には軟水を使っています。

——お酒造りに欠かせないのが「水」ですが、神石高原町の水には何か特徴がありますか。

三輪 推測にはなりますが、神石高原町・油木はこの周辺では標高が高いところになるので、どこかから流れてきた伏流水ではなく、この土地に降った雨が土地に浸みこみ時間をかけて井戸水として採取できているのではと思っています。

一般的に、仕込み水、宮水と呼ばれるのは硬水。広島県でも、軟水でお酒を仕込む蔵は少ないですね。硬水だと、水に含まれるミネラル分が酵母の発酵を促し、比較的短時間で発酵がすすむため、すっきりとした辛口の酒になる、といわれています。

広島県はかつて日本酒がつくれない土地といわれていました。というのも、日本酒造りには適さないとされる軟水の湧き出る場所が多かったからです。明治時代に三浦仙三郎という人が、軟水醸造法を開発して、軟水でもおいしい清酒を醸造できる技術を開発しました。おかげでわたしたちも軟水で醸造することができるわけです。

 

しみじみとおいしい清酒を

 

——どのような清酒をめざしていますか。

三輪 派手さはなくても、しみじみとおいしいお酒で、ゆるりとほっと安らげる味の清酒ですね。今日も明日も飲みたいというような。味でいえば、米の味が豊かで、清涼感があること。そういうお酒をつくるのは、難しいんですが。限定給水という方法で、誤差0.5%という精度を追求してつくっています。米の種類や天候によっても、吸水率は変化しますからね。そうしたなかで、緻密な酒造りを行なっています。




——海外にも輸出されているそうですね。

三輪 いろいろなところで引き合いがありますが、とくに香港ですね。純米酒が人気のようです。

——日本酒のおいしい飲み方を紹介してください。

三輪 そうですね。まずは40-50℃の燗酒がおすすめです。おつまみには、神石産の刺身こんにゃくや神石牛が合いますね()


 神石高原町唯一の酒蔵による清酒はこちら⇒https://jinseki.base.shop/items/23541274